木の命 材の寿命

古い木造建築物というと、1993年に世界遺産に指定された法隆寺の五重塔や、同じく1998年に指定された薬師寺の東塔を思い浮かべる方が多いと思います。

どちらの塔も1300年の時を超えて、現代にその姿を燦然と残しております。 使用されている部材は樹齢1000年以上のヒノキ

という樹種のものです。

「木」には二つの命があります。

一つは植物としての命と、

もう一つは伐採され建築用材と

なった 時の対応年数という命です。

どちらも樹齢1000年以上のものを使い1300年以上建っているのですから、

それらの「木」が芽生えたのは紀元前の話になってしまいます。

気の遠くなるような年月ですが、

紀元前に芽を出した木が、用材又は

建築物として現在でも残っているのです。

 仮にその使用した木を伐採した時に芽を出した木が、

今でも生えているとすると、 1300年経った今では同等程度の

木となり、同じような塔を造る材料ができます。

古代飛鳥時代の工人はそのように樹齢以上に木を生かす知恵や

技術を持っていたのです。

(わざわざ植樹等する必要がありませんでした)

 昨今環境問題がささやかれておりますが、飛鳥時代の工人の

様に、木材の対応年数を誰もが (一部の木についての知識のある

大工ばかりではなく)最低でも樹齢位まで伸ばす技術が確立できると、 森林伐採のスピードは今より格段に遅くなる(正常になる)

思います。

 身近なところですと、私達の周りでは古くて200300年位経った寺院や、100200年位の古民家等があります。

よく見ると、手入れが行き届いていない建物は、かなり傷んできています。土台や柱の根本等ヒバ材でも100年位で傷んでいます。

梁や小屋裏ですと、松や杉でも200300年経ってもしっかりして

いたりと、部位や樹種等条件によって違ってきます。

(土台ですと蟻害も問題になってきます)

 青森ヒバを例にとりますと、最近では大きな木がかなり少なく

なっているので、住宅に使用する木材は (35分~4寸角)

樹齢60100年位の木を伐採し建材にしています。

ですから樹齢を対応年数にすると60100年という事になります。社寺建築に使用する木材ですと300500年位のものを主に使用しています。

 現在の住宅には※「日本住宅性能表示基準」が定められており「劣化の軽減」の等級において、おおむね「75年~90年」もつ

という等級3を与えられていることからも(他にはヒノキ・ベイヒ・

ベイスギ・ケヤキ・クリ・ベイヒバ・タイワンヒノキ・ウェスタンレッドシーダー)法隆寺五重塔や薬師寺東塔の様に、時折修理・

点検をする事によって、住宅でも長寿命化(三世代孫の代まで)する事が出来ると思われます。

 木材の圧縮などの強度だけに着目すると、伐採されて150200年位の間に乾燥に伴い徐々に増してゆきます。

最大で伐採時より30%近く増してゆき、その後は数百年~千年近くかけて伐採時と同等程度の強度に戻ってゆきます。

ですから強度的に言うと、築後100年~200年位で(現在の古民家や江戸時代の木造建築物)一番木材は強くなっているはずなのですが、上記の様に樹種や部位・メンテナンス等で大きく異なって

きます。

もったいない話ですが、30年前後で解体してしまう現在の日本の

住宅建築では、木の命を無駄にしている としか言いようがありません。

※「住宅性能表示制度」とは、国土交通大臣が定めた

 「日本住宅性能表示基準」に基づいて、

  住宅の性能を比較できるようにしたものです。

 木造軸組工法の「劣化の軽減」には3つの等級が決められて

 おります。

 等級3「構造躯体が3世代(75年~90)もつ程度の対策が行われているもの」

 等級2「構造躯体が2世代(50年~60)もつ程度の対策が行われていつもの」

 等級1「建築基準法に定める対策が行われているもの」

となっております。

「木について」へ戻る     次の記事を読む