民家に使用されている材料は、基本的に全て持続可能です。木材、土、植物、民家の構成部材のほとんどは自然素材であり周辺で採取が可能であり、また再利用ができるものです。古材の場合は新しい木材よりもむしろ経年したものの方が強度も増していますし、古い土のほうがバクテリアが多く、藁の発行を促進すると言われています。
植物は再生される期間より長く使用すれば再生可能な資源であり、地産地消で輸送コストをかけずに環境負荷も小さくできるのです。また、その建築構法も経年変化により変化する金属をほとんど使用しないで継ぎ手などの分解が可能な接合技術で組み上げられリユースを前提とした解体も容易になります。
また、木材も腐朽菌により地面に近い部分などから腐っていきますが、根継ぎなどの補修技術を用いることで一部の劣化で全体の寿命には影響を及ぼさない持続性を持っています。襖や障子で簡易に間仕切る田の字の間取りは可変性に富み季節や生活スタイルに合わせて何度でも間取りを変更する事が可能でそれ自体にも出来るだけエネルギーを浪費しない工夫があります。材料・工法・維持管理・そしてライフスタイルの変化にも柔軟に対応できるのが、民家の真の価値だと思います。
吉田兼好の徒然草に住まいについて書かれているところがあります。
「家の作りようは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。厚き比わろき住居は、耐え難き事なり」
とあります。現代風にいえば住居は夏涼しく過ごせることが大事で、冬寒いのは我慢できるということでしょう。日本の夏の暑さは赤道に近い東南アジアなどとほぼ同じで季節よってはむしろ東京の方が東南アジアより厚い場合もあるのです。逆に冬の寒さも北欧並み・・・私たちの祖先はこんな過酷な土地でいきていくために様々な知恵を住まいに活かしてきました。先人たちの快適に暮らすための知恵は現代の住宅にも十分活かしていけます。
日本は南北に長い地形のためか様々な住居の形を見る事ができますがそのどれにも共通するのは、エネルギーを出来るだけ使わずに材料を調達し冬の寒さと夏の暑さに対応できる住宅をその土地に合わせて解決してきた事です。民家が持つエコな精神や省エネルギー技術や工夫が環境の世紀と言われる21世紀に再度見直されることでしょう。
先人たちが残した知恵の魂である民家を今こそ再評価する必要があります。
基本的に民家は夏を快適に過ごすために様々な工夫が施されています。
・屋根で日射を遮り、深い庇は夏の日差しを遮り、太陽高度が下がる冬は日差しを室内奥深くまで導き入れます。
・藁葺きの屋根はしみ込んだ雨がゆっくりと蒸発する事で熱を逃す役割もあります。
・外壁の白い壁で日射を反射し、土壁などの熱容量の大きな材料を用いる事で夜間に冷えて昼間の温度の上昇を防ぎます。
・畳や土壁は吸放湿性に優れ、ほど良く調湿してくれます。
・家の周りに植栽や池を配し、周辺の空気を冷やし室内に取り込みます。
・夏には夏障子などをしつらえて風通しをさらに良くしてくれます。
京都の町屋などは間口が狭く(昔は間口の巾で税金が決められたそうです)奥行きの長い、いわゆるウナギの寝床の様な作りですが、中庭を設けることにより空気の流れを作り出す構造になったいます。
古民家を実測したデーターによると夏場外気温より2~3度室内の方が低くなったそうです。
また、現存する民家の多くは非常に長い耐久性を証明していますので、この民家を守り住むことで、地球にやさしい環境負荷の軽減に役立ちます。持続可能な住居を考えるならまず古民家に目を向けて学ぶ必要があります。
その昔、戦国時代が終わり平和な江戸時代に移り都市部を中心に建築ラッシュが起きました。またケンカと家事は江戸の華と言われたように家と家が密着した長屋造りは火事になると損害が大きくなる傾向がありました。こうした中で木材の需要は大きくなり各地で林地が荒廃するようになり、洪水や崖くずれが頻繁に発生。幕府府や各地の諸藩は材木の切り出しを制限し、森林の保全に乗り出します。そうすると材木の価格は当然高くなりますので、材木をリユースする動きが活発になってきます。古材として材木を再度建築に活用するという事です。民家において木材再利用技術が発展した背景であり現在言われる持続可能な住宅の基礎は江戸時代の日本に存在していたのです。
昭和に入り戦後高度成長時代、全てのものは大量生産大量消費が良いとされ、住宅も使い捨てのような時代になりました。欧米の住宅耐用年数が70年といわれる中、日本の住宅の耐用年数は25年といわれる時代なのです。25年から30年程度持てばいいのですから、住宅に使われるものは安価でそこそこの耐久性さえあれば問題なく、一度使ったものは手間をかけてリユースする事もなく使い捨てされてました。また住宅の工業化が進み、自然木材などの規格化しにくい物は敬遠され、また工事期間が長くなる左官工事なども敬遠され、持ってきて取り付ければ終わりという建築材料=新建材が重宝がられました。しかし、不幸にもこういう新建材には、人体に悪影響を及ぼす物質が含まれており、ハウスシックという新たな社会問題まで引き起こしました。人々は安全な住居を求めた結果、自然素材、左官の壁など昔の民家の当たり前を再認識し取り入れようとしています。
地球環境の悪化、温暖化の問題は皆さんもご存じの通りで、今までのような大量生産、大量消費の消費生活で資源が枯渇し二酸化炭素の増加で人類そのものの生存に赤信号がともされています。だからこそこれからは枯渇する資源に依存せず持続可能な社会に変化していかなければなりません。