古民家というのはどういうものなのか、古い日本の伝統的な建築構法で建てられた建物というのは何となく想像できると思いますが、具体的な定義というものは実はありません。国の文化財登録制度というものでは、登録することのできるものは建てられてから50年以上経った建築物が対象になっています。古民家に使われている古材も、一般的には、築50年以上経った建物から取り出された材とされていますから、そこから推測すると50年以上経った建物を古民家と呼んでいいのではないでしょうか。また、古民家は全体を再生して建て直されることもあり、古民家を解体して昔の木材を使用して建てられた古民家風のものや構造を模したものも古民家と呼ぶ場合もあるようです。
古民家には、農村民家・町民民家・武家民家・庄屋屋敷などいろいろなタイプがありますが、それぞれの生活習慣を感じられる味わい深いいい住宅が全国でまだまだたくさん残っています。長い歴史を経た古民家には太い梁や大黒柱などは黒光りしていて重厚で風格ある古材が沢山残っており、価値の高い文化財だと思います。
古民家の魅力のひとつにわらぶきの屋根があります。大きく張り出した軒の出は夏の日差しを遮り、冬は建物の奥まで日の光を届ける大変合理的な日本の気候風土に合った構造になっています。
これらの沢山の昔の人の知恵の結晶が古民家なのです。古民家に使われている古材には、ケヤキやサクラ、栗、ヒノキなど実に多様な樹木が使われています。地方によって使われる材が異なるのは全て地元で伐採された木材だからです。囲炉裏の煙でじっくり燻された古材は表面にススがつき大変味わい深い色になっていると共に防虫の効果があるともいわれています。
一般に、鉄やプラスチックなどの材料は、新しい時が一番強く古くなるにつれた弱くなってしまいますが、逆に木材は、時間とともにどんどん強度を増していきます。樹齢100年のヒノキの場合、伐採されてから100年後に最も引っ張り強度・圧縮強度が増しているとの研究報告があります。木材の強度は200年~300年は変わらないといわれています。木材の強度が落ちるのは800年~1200年ほどという途方もない未来の話なのです。古民家は最近住宅とは比較にならないぐらい良質な木材が贅沢に使われた耐久年数の長い住宅なのです。
「古民家解體新書」より抜粋
発行所:一般社団法人住まい教育推進協会
〒162-0051 東京都新宿区西早稲田2-20-10
著者名:川上幸生 氏